ケータイ初音声定額・ウィルコム定額プラン特集
なぜウィルコムに音声定額ができたのか?



2005年5月1日、日本の移動体電話(ケータイ)史上に初の音声完全定額サービスが登場しました。それが、ウィルコム定額プランです。これはどうして実現できたのかについて、このページでは特集をしたいと思います。

なぜウィルコムに音声定額ができたのか?

さて、なぜウィルコムに音声定額が実現できたのか。言い古されたことではありますが、それは、PHSの周波数利用効率の高さにあります。PHSは、もともと、小さなエリアを持つ基地局で細かくエリアをカバーしていくというコンセプトのもので、一つの基地局のエリアが狭い分、全体エリアは確かに貧弱になってしまう代わりに一つの周波数を再利用できる頻度が大幅に上がります。また、一つの基地局がカバーしなければならないエリアが狭いおかげで、通話が集中して基地局の容量をオーバーしてしまう確率が低くなります。このような理由から、システム全体の容量という意味では、昔から携帯電話よりはるかに大きなものを持っていました。

さらに加えて、PHSには他の携帯電話が持っていない「ダイナミックチャネルアサイン」という仕組みが備わっています。これは、誰かが通話を開始しようとするとき、基地局は周辺を観測して使われていない周波数を自動的に選ぶ仕組みです。通常の携帯電話では、基地局にはあらかじめ固定の周波数が割り当てられていて、その周波数が枯渇したら終わり、という制限がありますが、PHSでは、PHS用として割り当てられた全周波数、30MHzすべてをいつでもどの基地局でも自由に使えるために「電波が枯渇する」という事態が非常に発生しにくくなっています(実際は、使える周波数にはある程度の制限もありますし、基地局配置戦略上、周波数を制限された基地局なども存在します)。また、もしある地域で通話チャネルが足りなくなったとしても、その地域に基地局を一つ置けば対策は終わりとなります。なぜなら、そこで使用する周波数は基地局が勝手に他に影響を及ぼさないように選んでくれるからです。これは、他の携帯電話方式ではこうはいきません。固定周波数を常に送信し続ける方式なので、電波の飛ぶ範囲を綿密に計算し、使える周波数を割り当て、もしそれでも干渉が発生するようなら周辺基地局を大量に巻き込んで大規模な周波数と出力の再割り当てを行う必要があります。これには、お金より何より時間がかかります。なので、たとえば音声定額などによって局所的に爆発的に通話が増えたとすると、PHSならすぐに(1ヶ月程度の時間スケールで)対応できるのに対し、携帯電話では解消まで年の単位の時間がかかってしまうことも少なくありません。

ダイナミックチャネルアサイン:増設前

ダイナミックチャネルアサイン:通話集中

ダイナミックチャネルアサイン:増設後

そういう意味で、「爆発的チャネル需要の増加」は、携帯電話にとっては非常に危険な因子であるのですが、PHSは従来の仕組みのまま対応可能なのです。そして、そのような需要の急増を生む可能性のある音声定額について、携帯電話は及び腰なのにPHSにはあっさりと実現できたという事情があります。

しかし、PHSにはPHSの弱点がありました。それが、NTTへのアクセスチャージ(接続料)です。PHSが簡単に基地局増設ができる理由の一つが、バックボーンにNTTのISDN網を利用するという部分があります。これにより、自前の線を引っ張りまわすことなく、全国的なネットワークを簡単に構築できるというご利益を享受し、結果として割安な通話料を実現してきました。しかし、これが、音声定額のようなドラスティックな通話料値下げとなると話が違ってきます。NTTの網を利用する以上、そこには利用料(アクセスチャージ)が発生します。その利用料は、通話した時間に比例したものです。ですから、音声定額でいくらでも話し放題とすると、このアクセスチャージが際限なく膨らんでしまい、赤字となってしまうというPHSならではの問題があったのです。

それを解決したのが、ウィルコムの開発した「ITX (IP Transit eXchange)」という装置でした。これは、NTT交換局に置き、基地局からの線を直接収容します。すると、基地局からの発信はNTT網ではなく、このITXに流れ込むようになります。ITXでは、その接続をウィルコムのIP網(実際は自前の網ではなく一般のIP網事業者から帯域借りしているものらしいです)に流し込みます。そして、目的の場所のITXで再びそこに直接収容されている基地局へと流し出すことができるわけです。つまり、完全にNTT網をバイパスしてしまい、NTT網利用料が発生しなくしてしまっていることになります。

そして、この仕組みを音声にも応用し、音声を完全にIP化、IP網を流すことができるようになり、結果として、音声通話によって発生するNTT網利用料をゼロにすることができます。これが、ウィルコムがPHSでありながら音声定額が実現できたもっとも大きな理由です。

ITX装置によるバイパス

このITX装置は、現在全国的に導入が進んでいて、すでに大都市では運用が始まっているようです。ただし、すべての交換局に一度にITXを入れるわけには行かないでしょうから、この作業は徐々に進んでいるでしょう。公式なコメントとしては、早期に全トラフィックの80%をIP化するということを言われていますが、それまでは、ウィルコムとしては音声定額により発生するであろう赤字をとりあえずかぶるつもりなのだと思います。しかし、2900円または2200円でも確実に黒字になると幹部が発言しているようで、どうやらIP網による全国カバーはそれほど遠い先の話ではなさそうです。私個人としては、音声をIP化することによる音質の劣化などが非常に気になるところですが、ウィルコム自身は定額プランの売りの一つとして「リアルボイス」として32kbpsの高音質を押し出していますから、ここはたっぷりとIP網の容量を取って、音質について担保してもらいたいですし、してくれるものと思っています。



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