携帯料金の価格破壊!? ~ 日本のケータイはホントに高い?


◇さて、最近徐々に、携帯電話業界の動きが激しくなってきましたね。と言うのも、様々な企業が新規参入を模索し始めたからです。元々、電気通信事業自体が非常に閉じた市場で、そもそもは国営で行われていた事業、そこに規制緩和で条件付で民間(と言ってもその当時はすでにNTTも民営化していましたが)が参入可能となったところから、まさに大改革と言われていたわけです。それが、昨今になって周波数プランの柔軟化や規制の更なる緩和で、さらに多くの事業者に対して参入機会が与えられることになりました。と言うことで、今回のお話は新規事業者が標榜する「携帯電話の価格破壊」、これで行ってみましょう。

◇さて、まずはそもそものところから、というのがこのコラムのスタイルなのですが、まずは、最初の新規参入、つまり、元々NTT系独占状態だった携帯電話市場に対して、DDI系やデジタルホン、ツーカーなどが続々と参入し、今の競争状態が形作られました。新規参入前のNTTの自動車電話の通話料は、一般電話宛で、3分300円近くにも達する高額なものでしたが、それが、度重なる新規参入と値下げ合戦により、現在では一般的なプランでは3分60~80円前後にまで下がってきています。

◇つまり、新規参入による競争の激化で、携帯電話の料金は、実に4分の1から5分の1程度にまで低廉化した、ということです。競争が行われることによる効果がいかに大きいかを物語っています。そして、2004年頃から始まった第二次新規参入ブーム。もちろんまだ実際のサービスは始まっていませんが、参入を表明する各社は恐らくこの先3年ほどを目処に、本格サービスの開始をもくろんでいます。携帯電話市場にDDIグループが参入したのが1988年ですから、ちょうど20年目の参入の大波となるわけです。

◇この第二次新規参入ブームを前にして、様々な人々(メディアや評論家)から、今度もまた前回のような大規模な価格破壊が起こり、日本の携帯電話は非常に安くなるのではないか、と言うことが言われています。いわく、海外の携帯電話並にまで安くなるのではないか、と。また、新規参入事業者自身も、「日本の携帯電話は(海外に比して)高すぎる、その値段を海外と同等にまで下げることがわれわれの使命だ」と語るような場合もあり、とにもかくにも、携帯電話料金が大きく値下げされるのではないかという期待感が漂っています。

◇しかし、ここで(天邪鬼な)私は、それらの意見に敢えて異を唱えてみようと思っているわけです。つまり、携帯電話の料金、というものを考えたときに、その根拠となるのは一体何なのか、という点をもう一度考え直してみて、そして、その観点から、日本の携帯電話料金はどうなってしまうのかと言う点を考え直してみるわけです。

◇携帯電話の料金、その根拠は、例えば、基地局やネットワークの維持コスト、事務処理コスト、広告販売コスト、などなどがその根拠であると考えることは、さほど間違っているとは思いません。ただ、以前も似たような話をしたかと思いますが、携帯電話の料金の根拠で一番大きなものは、無線帯域、これだけです。どういうことかというと、例えば料金をありえないほど安くすると、みんな安いからと使いまくります。すると、無線帯域はあれよあれよと消費され、激しい輻輳で使い物にならなくなってしまいます。そして、この無線の帯域ばかりは、事業者の努力で増やせるものではありません。国の周波数プランはもとより、そもそも利用可能な電波については物理上の強い制約があるため、利用数が増えたから周波数も増やそう、とは、簡単には行かないのです。そのため、事業者としては、ユーザが快適に利用できる(品質を保持できる)程度のギリギリの料金を模索し、そのギリギリを攻めて値下げをしていく、ということになります。これは高速道路の比喩でも説明されることですね。高速道路をただにしてしまうと多くの車が殺到し大渋滞が起こり、高速道路が使い物にならなくなってしまう、だから高速道路料金は値下げしにくいのだ、というたとえが用いられることがあります。

◇そして、その「ギリギリの線」は、実は、この20年の競争市場の中でかなり煮詰まっています。つまり、これ以上価格を下げることは、品質保証という観点ではかなりきわどい決断になるだろうと言うことです。そして、それは新規参入事業者にとっても同じです。元々無線周波数には限りがありますから、新規参入にあわせて新規割り当てを、と言っても、たかが知れています。結局、従来の周波数を分割して割り当てなおす、という形になるでしょうから、「絶対的な周波数の量」と「加入者数」の関係はさほど変わらず、結果、品質を保てる通話料水準は今とほとんど変わらないと考えられるのです。今、新たに1.7G帯の割り当てが模索されていますが、今のところ30MHzほどが新規割り当てに充てられる見通しのようです。現在、携帯電話全体に割り当てられた帯域が約250MHzほどですから、せいぜい10%の増加、つまり、新規帯域を新規業者が使ったとしても、同様な通信方式を使う以上は、最大でも10%程度の値下げにとどまると思われます。某経済系研究所では、新規参入による値下げ効果はおおよそ5%程度、と見積もっているようですから、なかなかいいセンをついているのではないかと私は思います(えらそう)。

◇その一方で、「じゃぁ、海外は何故あんなに安い?」という疑問が沸き起こるでしょう。ちょっと資料を調べたところ、携帯電話の料金水準は、日本を100としたとき、アメリカ=61、イギリス=87、フランス=96、ドイツ=98と言う調査結果が出ているようです。日本以外の先進各国は、軒並み日本より安い料金となっています。これでも日本の携帯電話料金は安くならないと言うのか?と言うわけです。

◇その問いに答えるのが、「電波を使った通信」というものの特性です。電波と言うものは、基本的に発射してしまえば空間を伝わって行く物です。つまり、電波通信にとっては、空間そのものが伝送路である、ということです。そう、キーワードは「空間」。つまり、空間がたくさんあれば、結果としての伝送路コストは安くなり、逆も真なり、というわけです。ただ、事実上、空間と言うものはどこに行っても同じもの、だから、国によって違いがあるわけがありません。しかし、考えてみてください。同じ空間でも、その中で携帯電話を利用する人の数が違えば、一人当たりの空間は違ってきますよね。実はその「一人当たりの空間」が、一人当たりの料金に直結しているんです。

◇これは、実は、土地・住宅事情と全く同じなんです。土地の価格を決めるのは、その土地にどれだけ多くの人が集中(しようと)しているか、という点ですよね。電波も同じ。同じ空間の中なら、つかえる帯域は決まっていますから、自ずと、空間の広さ自体が利用可能な伝送帯域を決め、それがそこに住む人の頭数でシェアされている、と考えられるわけです。ちょっと回りくどくなりましたが、要は「人口密度」が高ければ高いほど、一人当たりの伝送路は減る(伝送路コストは上がる)と言うことなんです。

◇そういう視点で、次の表を見てみましょう。
  日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ
携帯電話料金水準(日本=100) 100 61 87 96 98
人口密度(人/平方km) 336 29 244 109 233
料金対人口密度比
(=帯域あたりのコスト)(日本=100)
100 706 120 296 141
この表は、各国の料金水準と人口密度、そして、人口密度に対する料金水準の比率を表したものです。最後の人口密度に対する料金水準で何がわかるかというと、一人が利用可能な空間(帯域)に対する一人あたりの携帯電話料金、つまり、純粋な「帯域当たりの携帯電話料金」が出てくるわけです(ただし、周波数プランが各国で少しずつ違うため誤差はありますが、全体でみればさほど大きな違いだとは思いません)。

◇アメリカに関しては人が住んでいない土地が広すぎるのでちょっと外れすぎた結果が出ていますが、それにしても、日本は一人当たりの土地が狭い割には料金的には随分がんばっていると、思いませんか?。利用可能な帯域に対する料金という視点で見れば、実はこの4か国中で最も安いんです。そう、そもそも「日本の携帯電話は高い」ということ自体、実は、こういった事情を無視した壮大な「勘違い」であったわけです(いろんなところにケンカ売ってる気が・・・;汗)。

◇もちろん、この議論自体が間違っているのではないか、という点に対しても、もう一つデータを紹介しておきたいと思います。それが、「固定電話の料金」と「ADSLの料金」。これらは、基本的に空間そのものにはあまり影響されません。なぜなら、伝送路は完全に閉じた非常に細い電線の中だからです。この電線の太さが空間の大きさに対して問題となる可能性は事実上ゼロですから、これらの固定回線は「空間の影響を受けない」と言っても過言ではないでしょう。
  日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ
固定電話(市内) 100 133 256 233 178
ADSL 100 101 130 120 141

ご覧になって分かるとおり、特に固定電話については、(アメリカを除いて)先ほどの「帯域当たりの料金」と近い傾向を示しており、また総じて日本より高額であることが分かりますよね。固定回線に関しては、帯域=電線の本数=利用者数、ですから、帯域当たりコストが即利用者一人当たりの料金に即決します。つまり、日本はこんな狭い島国の中なのに実はすでに十分競争が行われ、帯域当たりのコストと言う点では来る所まで来ちゃっているのではないかと、私は思うのです。

◇と言うことで、帯域に限界があるという点を踏まえれば、実は日本の携帯電話は十分安い水準にあるんです、今でも。これをドラスティックに変えることは、(まともなやり方では)不可能でしょう。しかし、これ以上安くなることは絶対にないのかと言えば、そうとばかりはいえません。なぜなら、技術自体も日々進歩し、帯域あたりのコスト(すなわちその逆数が周波数利用効率!!)を下げる努力は常に続けられているからです。こうなると、すでに様々な先端技術の研究をしている既存事業者が圧倒的に有利です。つまり、一般的には「新規事業者が価格破壊を引き起こす」と言われているのが、「既存事業者が先端技術で低価格化をリードする」という構図へとすぐに変わってしまうであろうと思うわけです。と、これ以上は本題からずれそうなのでこの辺にしておきます。

◇何はともあれ高いと言われる日本のケータイ、しかしその実、各社の切磋琢磨と技術努力で、海外に比べても恥ずかしくない料金水準にまでシェイプアップされていたのです。そしてそれをさらに高めるのは、新参事業者による戦略か、既存事業者による先端技術か、それとも・・・?



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