ページャについて思うこと


◇鉄の着信。

◇ページャ(ポケベル)の着信の強固性に対して与えられた言辞の一つです。ということで今回は、すでに姿を見なくなって久しいページャについて、つらつらと思うところを吐露してみようというお話です。

◇ということで、語る前提として、ページャの歴史をちょこっと調べておきましょう。ページャがはじめて世に出たのが1968年といいますから、実に30年以上も前のお話。しかし、一般的に世に出始めたのは1995年、ページャ端末の買い取り制度が始まってからということですから、実はまだ、実質8年程度の歴史しかないに等しい訳です。ただ、買い取り制度開始と同時に様々な種類のページャが考案され、また新規事業者も参入してページャは一時代を築いたわけです。

◇ところが、そのページャ、ある時から突然没落の一途をたどり始めます。まず、ページャがなぜそれほどに人気を博したのかというところですが、基本的には発信もとの電話番号を表示するだけの機能だったのが、その発信元電話番号の入力を上手く利用して簡単なメッセージを伝え合うようになったところから、ページャの用途が大きく変わりました。すなわち、中高生を中心とした世代による、友人同士のメッセージのやり取りが利用方法の大きな比重を占めるようになった訳です。必然的に、数字のみのメッセージをカタカナ表示するような機能を持ったものが現われ始めます。この端末の登場で、簡易メッセージングメディアとしてのページャの地位が確立しました。

◇ところが、直後に、あるものが始まります。言わずと知れたPメールです。直接送信・双方向という面でページャより優れたPメールにより、ページャのメッセージングメディアとしての地位は大幅にぐらつき始めます。また、それを追うようにして、携帯電話でも簡単なメッセージをやり取りできる機能が提供され始めます。ここに来て、携帯電話のそこそこ広いエリアと、簡易メッセージという要素が一緒になってしまい、簡易メッセージ端末としてのページャが携帯に勝る部分がほとんど無くなってしまいます。

◇また同時期、携帯電話各社は、急速にシェアを伸ばしつつあったPHSに対抗するために、携帯電話の基本料の大幅値下げに踏み切っています。このために携帯電話の値ごろ感が大幅に増し、一方の、受信のみしか出来ないというページャの割高感が明らかになっていました。

◇そして、携帯・PHSによる簡易メッセージのやり取りと値下げ、この二つの出来事はまさに効果覿面、それ以降のページャ加入者数は驚くような勢いで減り始めます。私の周囲の状況で言うと、Pメールが定着した頃にはページャユーザはもはや一人もいなかったと記憶しています。このようにして加入者数は激減し、各地でページャ専業事業者の倒産が相次ぎ始めます。たとえば1999年には新参ページャ業界では最大手ともいわれた東京テレメッセージが事実上倒産の憂き目を見ました。

◇さてこのように、おおむね携帯・PHSの値下げと機能追加により没落したページャというシステム、それが、本当に携帯やPHSで置き換えられてしまうに十分なほど、機能的に未熟なシステムだったのか、と考えてみます。

◇ページャは、比較的低い周波数(150~250MHz帯)を使って、基地局から端末機に向けて一方向に信号を送り、それを端末機が受け取って内容を解析し、自分向けの信号であればその信号に埋め込まれた情報を元に動作を行う、というものです。たいていは、埋め込まれた情報というのは、呼び出しもとの電話番号であったり文字情報であったり、で、行う動作というのは、端的に言えば液晶ディスプレイへの情報の表示と音やバイブレーションなどの方法でユーザに着信を知らせるということです。こうやって書くと、ページャがいかに単純明解で無駄無く完結したシステムであるかがよく分かると思います。

◇ページャがこのようなものであることから、まず、端末機は無線送信を行う必要がありません。この、送信機が必要ないというのはかなり重要な意味合いを持ちます。まず、送信機としての電気回路を必要としないことから、端末を非常に小型化できます。電波が届いたかとどいてないか、を見るだけで良い訳ですから。そして、加えて、無線エリアを非常に広大にすることが出来ます。送受信両方が必要な無線機器の場合、相手の電波が届くだけでなく、自分の電波が相手に届くことが必須となります。相手に電波を届かせるには、1好都合な地形2大電力3アンテナ利得、この条件がそろわなければなりません。地形はともかく、電力・アンテナ利得を大きくするには、それぞれ端末に大きなバッテリとアンテナを必要とし、またパッテリ寿命も著しく短くなります。双方向通信機器だと、通信し合う両方の無線機、つまり基地局と端末の両方がこの条件を備える必要があります。電力と利得の問題は、基地局では簡単に解決可能ですが、端末側ではそうはいきません。端末はどうしても電池容量とアンテナ容積に制限があるため、双方向通信システムの通信エリアは最終的には端末→基地局の電波の通り具合によって制限されることになります。ところが、ページャでは、この制限がそもそも存在しない訳です。ということはどういうことか、というと、純粋に基地局の出力(と端末のアンテナの受信利得)にのみ、エリアが影響されるということです。基地局に、高出力で利得の高いアンテナを採用するのは難しいことではありません。そのため、比較的簡単に広大なエリアを実現できるという利点を、ページャは自ずから持っている訳です。

◇また、周波数帯域が比較的低い、というのも重要なポイントです。電波が伝わっていくときには減衰がありますし、障害物もあります。この減衰と障害物による影響が、周波数により異なり、端的に言うと、周波数が低いほど減衰が小さく、また、障害物を回り込む特性が強くなります。そのため、周波数が低いページャでは、少々基地局から離れても、建物の奥まった障害物だらけの場所でも電波が届くようになります。周波数が低い、片方向、というキーワードで見ると、ラジオ放送などがまさに同じ電波伝播特性を持っていて、どこに基地局(放送局)があるのか分からないし、鉄筋建築物の奥にいたって余裕で受信できちゃいますよね。ページャも基本的にそれにかなり近いエリア特性を持っているといえる訳です。

◇そしてこのことから、ページャの着信確実性を指して、「鉄の着信」という呼び方が生み出されたという訳です。

◇そのページャ、残念ながら現在は没落の一途、一般的な場所で新規加入の受付けを見ることも無くなってしまいました。その原因は先ほども述べた、携帯・PHSの普及による、ということになっていますが、本当なのでしょうか?

◇こう疑問を抱くのも、ページャの特性が、携帯やPHSが持つ特徴とは根本的に異なり過ぎているからです。通信方向を片方向に限定し、かつ通信能力を最低限に抑えることで低周波数帯化することにより、非常に広大なエリアを実現し、「より確実な着信」だけに特化したシステム、これは、たとえば双方向性と通話中の品質と接続の保持、自由な発着信、さらにはある程度以上の通信能力を保証する、このためにエリアを犠牲にした携帯・PHSとは異なっていると思いませんか?。これは、実は私がPHSと携帯の比較論においてしょっちゅう言っていることと全く同じことを言っています。十分なエリアと音声接続の保持のために通信能力を犠牲にした携帯と、何より高品質な伝走路を最優先するためにエリアを犠牲にするという方法の一つであるPHSを一緒に論ずるべからず、というのと同じことなんです。つまり、私にとって見れば、なぜ、携帯電話がページャに競合するもの、比較の対象となり得るものと見られているのかが、不思議でならない、というのが本音なんです。

◇そう、純粋な「着信」というだけなら、ページャは極めて優れた性能を持つシステムなんです。そもそも「ページ」とは、「召し使いに(名前を呼んで)人を探させる」という意味を持ちます(本の「ページ」の同綴異義語です)。どこにいるか分からない相手に向けて、取りあえず大声で呼び、反応を待つ、そういうことを電波でやってしまおうというのがページャの始まりなわけで、とにかく相手に声が届くことが最優先だった訳です。話はそれますが、一般的な移動電話の呼び出しメッセージも「ページング」と呼ばれています。まず大声で名前を呼び叫んでみて、それから反応を待つ、という方法は同じです。この時、携帯端末が自動的に反応を返すかどうかが大きな違いで、また、この自動的な反応が返らなかった場合は「圏外」扱いとなるわけで、端末→基地局への電波の通りがエリアに大きく関係するというのはこの部分の影響が大きい訳です。そういうわけで、大声で呼び、それを聞くだけに特化したページャが、そもそも携帯・PHSに対して着信において負ける訳が無いんです。

◇そして、このことはもう一つ重要な特長をページャに与えます。それは、「情報の完全なプッシュ配信」です。たとえばタクシーの助手席上に取り付けられたニュース電光板はページャによる配信です(注:FM多重放送の場合もあります)。鷹山の持つ「マジックメール」というモバイルEメール配信システムもページャです。これらは、あらゆる意味で完全なプッシュ配信であり、またこれはページャ以外では今のところ実現不可能です。確かに、ページャ圏外にいると、着信できません。でも、着信に対して上りの応答を返さなくて良い分、着信可能性は飛躍的に上がります。着信に対して応答しなければ情報を得ることの出来ない携帯・PHSとは根本的に違います。

◇このように、ページャが駄目だと(世間に)判断された原因の一つである「自分から送信できない」という特徴は、逆に、「応答する必要がない」という最も優れた、他の移動体通信に真似の出来ない特長の一つでもある訳です。携帯とエリアは変わらない、などといわれますが、それは見かけ上の話であり、電波さえ届けば、自分から応答する必要がない、つまり、携帯において着信失敗の第一原因である「最初の応答」を必要としないことにより、実質のその利用可能範囲は今現在でも携帯より桁違いに広いはずです。実は、使い道によっては、ページャは極めて優れた情報ツールとなり得る可能性があるんです。

◇「送信できない」「エリアも携帯と変わらない」と、見かけ上の不利点だけで見放され、忘れられようとしているページャ、けれどもその「鉄の着信」はまだまだ健在、どんな状況でもかなり確実に連絡が取れるというその強みはまだそのままのはずです。いつか、ページャが見直され、メール受信を始めとする必携のモバイル情報ツールとして脚光を浴びる日が来ることを私は願っています。



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