フレックスチェンジの奇妙な位置付け


◇最近ではつなぎ放題やメール放題で、32k/128kパケット方式ばかりが注目され、いまいち人気の無いフレックスチェンジ方式。このフレックスチェンジ方式について、ちょこっとだけ書いてみようかなぁと思ったのが今回のお話。

◇さて、例によって最初のところから話を始めてみましょう。DDIポケットからフレックスチェンジが登場するより遥かに前、ISDNの通信規格の一つとして、AO/DIというものが考え出されました。これは、Always On / Dynamic ISDNの略で、常に接続状態において置ける、つまり常時接続的使い方をISDNで実現するために考え出された方法です。この具体的な理屈は、実装の難易を無視すれば驚くほど単純です。ISDNには、2本のBチャネルと1本のDチャネルがあります。AO/DIでは、Dチャネル上にパケットリンクを常に張ったままにしておき、データ量が増えたりしたときのみ、動的にBチャネル上にリンクを立ちあげて捌く、というものです。

◇このような方法が考え出された一番大きな原動力は、ずばりコストの問題です。ISDNのBチャネルは、データを流すためにはリンクを立ちあげて完全に占拠するような使い方をする必要があり、このために時間単位でコストが発生します。このようなわけで、Bチャネルを常時接続適使い方をするととんでもないコストが発生します。一方、ISDNにはパケット手順も用意されていて、こちらはパケット単位で帯域を使うため、パケット単位のコストだけで済みます。そこで、接続自体はパケットの方で維持し、大きなデータが来たときは回線交換に即時に切り替えて使うことで、データの少ないときはパケットによるデータ量コスト、データが多いときは時間単位コストが発生するような方法にすることができます。こうすることでコストを大幅に削減することが出来ることになります。

◇この方法は結局、フレッツISDNで使われている交換機をバイパスすることでコストを削減する方法が考え出されたために時代遅れになり、結局NTTも導入を見送りました。そして、そのまま時代の中に置き去りにされようとしていたこの技術に、DDIポケットは目を付けて拾い上げたのです。それが、フレックスチェンジ方式の始まりです。

◇フレックスチェンジ方式は、基本的にはAO/DI方式とほぼ同じような制御を行います。回線の使用方法もほぼAO/DIで使われているものと同じ物です。つまり、基本はパケットで接続を維持しつつ、要求にしたがって64kPIAFSのリンクを張って大容量のデータが流れても大丈夫なように作ってあります。

◇DDIポケットがこの方法を取ったのには、二つの理由があると考えられます。一つは、当然のことながらコストの問題です。DDIポケットはもちろんNTTのISDN網に依存しています。当然、その回線を利用するためのコストが否応無く発生します。ここで、もし64kPIAFSを繋ぎっぱなしにしてしまうと、有線区間ではBチャネルを繋ぎぱなしにすることに相当し、それに応じたかなりの巨額の時間課金料金がかかってくることになります。一方、ISDNパケット手順を利用してパケットのみでやり取りするようにしたとしても、大容量のデータがやり取りされるとあっという間にすごい料金になってしまいます。定額または準定額をターゲットとして、通信コストを大幅に下げることを目論んでいたDポにとって、この問題の解決方法はAO/DI以外に有り得なかったと考えられます。

◇一方、もう一つの理由として、もし上位回線がフレッツISDN的手法で格安に出来たとしても、無線区間をデータのある無しに関わらず占拠する64/32kPIAFSは、定額的サービスを考えたときに非常に危険であると判断したかもしれません。確かにDポはPIAFS2.1/2.2、すなわちリンクの占拠スロット数を状況に応じて可変できる方式を使っているため、接続性はPIAFS2.0よりは優れていますが、それでも、一般基地局では3回線が限度です。回線の一時開放手順を使っても数名以上が同じ地点から同じ基地局を利用するのは不可能に近くなります。輻輳問題は深刻になるはずです。そこで、無線リンクを一時開放してしまう代わりに、パケットリンクに切り替えてしまおう、と言う方法を選びました。この方法なら、一つのパケット用スロット(制御用スロット)に事実上無限数の端末を接続でき、その中から3人までが32k以上のPIAFS接続を享受できます。最低限パケット回線を利用できるため、輻輳により接続に失敗するということはまず起こりませんし、また、PIAFSに移行するデータ量の閾値とパケットモードに落ちるタイマを適切に設定しておけば、ほとんどの人がPIAFSも平等に使えるようになります。この、平等なサービスを行うという面からも、AO/DIの仕組みは(特に無線区間において)非常に有用であるわけです。

◇そういうわけで出来上がったフレックスチェンジ、これが、現状つなぎ放題でおなじみの32kパケットに比べると非常に奇妙な振る舞いをすることは、お気づきになっている方もいるのではないでしょうか?。フレックスチェンジでパケットモードになっている状態は、つなぎ放題の32kパケットとは仕組みがやや異なっているように見えるんです。AirH”のパケットが、遅延が非常に大きいというのはもはや周知の事実です。プロバイダ接続点から最も近いサーバに対してPING試験を行うと、レスポンス時間は約300~400ms程度になります。ところが、フレックスチェンジのパケットでは、これが200ms台前半の値になります。実に、通常のPIAFSで回線交換接続をしたときとほぼ同じ値です。これがなぜなのかは、推測を除いては何も分かることはありません。ただ、フレックスチェンジは元々ISDNのAO/DIを元に作られているため、ISDNパケット手順と親和性が高く、比較的遅延が少なくなったのではないかと考えられます。逆に、32kパケットはDポが独自に開発し、無理矢理ISDNに流し込んでいる方法であるためにやたらと遅延が発生する、という言い方も出来ます。この点は、意外と見過ごされているフレックスチェンジの利点の一つです。

◇結局、Dポは32kパケットを開発し、より低コストを実現できたためにつなぎ放題を開始することが出来ました。そのため、25時間という制限がついているネット25とフレックスチェンジ方式はかなり忘れられた存在となっていきます。2002年10月にネット25の128kパケット対応が始まってからは、ネット25の存在こそ脚光を浴びましたが、逆にフレックスチェンジは更に忘却のかなたに忘れ去られつつあるようです。

◇なぜフレックスチェンジが忘れ去られようとしているのか、は、一つは上に述べた通り、一時期つなぎ放題の隆盛でネット25そのものが忘れられていたこと、そして、ネット25が128kパケットに対応したことで、数字上の最大速度、64と128を比べられたこと、これが原因です。しかし、これは直接の原因でしかなく、実はもっと大きな理由がその裏にあるのではないかと私は考えています。それは、DDIポケット自身がフレックスチェンジを無かったことにしたがっているのではないか、というもの。

◇先ほども言ったように、フレックスチェンジはISDNのAO/DIを応用した方式です。となると、当然、ISDNでAO/DIを使ったのと同じコストがかかります。32kパケット方式では、回線プランをうまく行うことでデータ量当りのコストを大幅に下げています。しかし、フレックスチェンジのパケットは、従来通りISDNパケット手順を使っているのではないかと思うんです。このISDNパケット手順にかかるコストは、NTTが提供しているパケット通信サービスのコンシューマ価格で0.5円、卸価格でも一桁以上は違わないでしょう。つまり、フレックスチェンジのパケットは未だにかなりのコストがかかってしまっているのではないかと考えられます。こうなると、Dポの工夫でかなりコストを削れた32kパケット(と128kパケット)に比べて、フレックスチェンジはかなり割高になっちゃっているのではないかと思われるわけです。これだけでも、Dポがフレックスチェンジを余り使って欲しくないと思うのに十分な理由ですよね。で、この根拠、というほどではないんですが、これが事実であると疑う理由というのが、先ほど出てきたパケットモードの奇妙な振る舞い、異常に短いレスポンス時間なんです。このことから、ひょっとするとDポはNTTにパケット料金を払って正規のパケット手順を使っているんじゃないか、と思ったわけです。

◇そういうわけ、かどうかは分かりませんが、とにかくひっそりと姿を消しつつあるフレックスチェンジ、音声端末でも、最後の対応端末はHV210で、J700やAirH”Phone、J300xVもフレックスチェンジには未対応です。フレックスチェンジはこのまま消え去ってしまうのでしょうか?

◇私はDDIポケットにぜひとも考えて欲しいと思うんです。ライバル@FreeDにどうやって対抗するのかについてです。単に32kパケットのつなぎ放題を安くしても、それは安かろう悪かろうのサービスにしかなりません。しかし一方で、回線交換PIAFSに匹敵する速度安定性とレスポンスの速さ、32kパケット方式に匹敵する接続性の高さ、これだけの能力を持ったフレックスチェンジ方式が存在します。これがもし完全定額で利用できるとなれば、非常に強力な対抗サービスになり得ると思います。@FreeDが定額を実現した方法はNTT網の定額接続でした。これと同じ方法で、フレックスチェンジも発生コストを一定化できるのではないかと、思ってしまうんですが、どうなんでしょうか。

◇そういうわけで、非常に大きなポテンシャルを持つフレックスチェンジ方式、これがいつのまにかほとんどの人に忘れられ、Dポの新しい様々なサービスからことごとく無視されつつある現状を見ると、なんとももったいないなぁと思ったことからこんなコラムを書いてしまいました。いや、Dポさん、少なくとも、つなぎ放題+オプション128の人だけでも、フレックスチェンジ放題とかやってもらえないですかねぇ。おねげぇしますだ。・・・って結局そこなんですな(笑)。



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