手書きの味を伝えるには?~文字電話よもう一度!


◇このコラムも長いことかいているとたまにはリクエストが来ることもあります。過去のコラムもそうやってかいたことも多いのですが、今回もそんなリクエストからコラムに仕立て上げようというお話、それはDポのPHSサービス「文字電話」について。

◇最近AirH”からDポに入った人や、H”以前のことをほとんど知らない方にはご存じない方もいらっしゃるかもしれないので、取りあえず「文字電話」とはなんぞやと言うところから始めてみましょう。文字電話と言うのは、DDIポケットが99年2月に開始したサービスで、PDAっぽい外観の広いディスプレイ(タッチパネル)を搭載した端末と、専用の料金コースを組み合わせたもの。専用端末は音声には対応せず、単にPDAのようにひたすらメールの送受信だけが出来るという非常に機能が限定されたものです。その代わり、月の基本料金は980円(ベツベツメールコース)。これはモバイル最安基本料の安心だフォンと同じ基本料金です。発信先は無制限なので、メールだけに限れば一番お得なコースです。一方、1780円で1000円分の通信料込みと言うコミコミメールコースと言うのもあり、ある程度以上の使用頻度ならこちらの方が200円分得になる計算になります。とまあ、これが基本的なサービスの概要です。

◇発売された当時は、私も電気屋で端末を見て、なんだこりゃ、と興味を持ったのを覚えています。ちょうど、使っていた端末(PS-801)がそろそろ機種変更を迎えるころだったので、おや、これ面白いなぁ・・・と、機種変更を考えちゃったのを思い出します。もちろん、「え・・・通話は出来ないんだ・・・」と気づいて、メインの回線をメール専用に切り替えちゃうのはまずいと思って思いとどまったところもあるのですが、結構すごいインパクトでした。何せ、手書きでかいてそれを送る、それだけをターゲットにした端末で、それがすごく気軽に出来ちゃう。こんなサービス、実際無かったですよね(今も無いですが;苦笑)。それ以前にも、コンセプトモデル的なPDA型通信端末はたくさんありましたが、コスト的にどう見ても一般消費者向けじゃないものばかりでしたから、実際にお店で目にすることはなかったわけで、ちょっとびっくり、と言うところだったわけです。

◇当時、もちろん「こんなの、進んでいる携帯ならもっとすごいのが出てるに違いない」なんて思った私ですが、実際問題、出てないですよね(苦笑)。手書き文字(画像)となると、結構な大きさの画像になってしまいますから、それを携帯電話の回線の遅さと料金の高さで送受信しようとなると、ちょっと半端じゃないほど時間とお金がかかっちゃいます。もちろん、結局「文字」さえ送れれば良いんですから、1文字2バイトで済むテキストデータとして送受信した方がはるかに効率として優れているわけで、結局世の中はそちらの方へとシフトしてしまっています。おかげで、今や文字電話は見る影も無いほどすたれてしまっているようです・・・。

◇そもそも、この文字電話の利点は一体どこにあるのでしょうか?。手のひらに乗っけて、スライタスで文字なり図形なりを描き、相手のメールアドレスまたは電話番号を入力して送信・・・できるのは実際これだけです。もちろん基本料金は非常に安いですが、安心だフォンも同じ値段。通常のテキストメールも送れますが、それは今時どのケータイも出来ること。もちろん、発売当時のPHSでも出来ていました。しかししかし・・・よく考えてみてください、手書き画像は紛れも無く画像です、当時、メールで画像を送信できる携帯電話があったでしょうか。先ほども言った、コンセプトモデル的PDA端末を除けば、ほとんど無いに等しい状態だったはずです。そう、文字電話は、紛れも無く、「ケータイで画像送受信」を一般に放った先駆けてきサービスだったわけです。言ってみれば、今流行りの写メールの走り的存在なのです(それは言い過ぎ;笑)。

◇当時は、携帯電話の世界では、画像を送るなんてのは誰も考えなかったこと。ちょうどiモードが始まって、文字での通信がようやく一般的になり始めたころに、文字電話はデビューしています。なぜこんな早い時機に、DDIポケットにこれが実現できたのか、それにはいくつか理由があります。

◇一つ目の理由は、当時すでに実現していた、高機能のメールシステムのおかげでしょう。DDIポケットがPメールDXという名で高機能メールを開始した当初から、すでにそのメールはあらゆる種類の添付ファイルを許容するものでした。しかし、その添付ファイル機能は長い間、対応機種同士での特殊なファイル(着信メロディや音声、アイコンなど)のやり取りにしか使われていませんでした。その添付ファイルとして、一般的に使われているbmpファイルを使ってしまえば、かなり汎用性のある画像データのやり取りが出来ることは自明です。しかし、bmpファイルのやり取りとなると欠点があります。それは、サイズが非常に大きいこと。これは回線に大きな負担をかけるものです。だったらjpegなどの圧縮画像にすればいいか、と言うと、そうもいきません。一般消費者(特に女子高生など)の手に渡るのに十分安価な端末に、jpegコーデックを乗せるのはコストがかかりすぎるからです。

◇そう、ここで理由の二つ目、それは、PHSの高速通信性能です。当時PHSはすでにPIAFS1.0による32kbpsの高速通信を行う機能をとっくに備えていて、技術的下地は十分にあったわけです。この高速のおかげで、非圧縮bmp画像も苦もなく送受信できたのです。余談になりますが、この利点は、同じ年に発売されたメール端末pocket-Eにも出ていますね、他社に先駆けてのカメラ搭載は、画像(写真)のやり取りというコミュニケーション形態にはそれなりの通信速度が必要であったため、速度で秀でていたPHSの利点が生かされた結果であると考えられます。

◇そして、もちろん忘れては行けないのが、コスト的優位です。高機能メールPメールDXは、基本的にはデータ通信料金の適用、実質は、1メール10円という設定でしたが、これはかなりメールサイズが大きくなっても変わりません。32kでも100kB程度までなら10円で余裕で送れるという、非常に安いコストがあったからこそ、気軽に画像の送受信を行えるという文字電話が成立する余地があったといっても過言ではないでしょう。この点、PDCでは9600kbpsで、回線交換でもbmpでは簡単に20円を超えてしまいますし、パケットとなると、bmpを送るのは非現実的です。若者の少ないお小遣いでも十分にコミュニケーションを楽しめるようなサービスは、当時は事実上PHSでしか実現できなかったということです。

◇そして、これらの議論を見て、あることに気づいた方もいらっしゃるでしょう。「高速通信性能」「低コスト」と言う、PHSの二大利点をいかんなく発揮しているのは、そう、まさしく文字電話であったわけです。通常のテキストを送るなら、32kなんて言う高速は必要ないですし、コストはむしろ割高にすら感じられるくらいでしょうが、手書き文字と言う非常に大きなデータ(しかし内容は薄い)を送るというときには、この二つの特長が不可欠であるということ。言ってみれば、文字電話こそ、初期におけるPHSという通信方式がその存在意義をいかんなく発揮する金字塔的サービスであったといえるのではないでしょうか。

◇PHSの音質は、携帯電話各種よりはるかに優れています。それは、音声回線に贅沢に32kを利用して、雰囲気まで伝える音質を実現したから。もちろんそれだけ冗長なデータも多いのでしょうが、その冗長な部分こそ、お互いの気持ちを伝え合うのに一番大切な部分だったりします。そして、文字電話は、無駄に大きな画像中に、へたくそな字や絵が描かれ、それを贅沢に何kBという巨大データとしてメールに添付して送る・・・それは、本当にたくさんの冗長なデータを含んでいます、しかし、手書き文字の味、手書き文字だけが出せる、本人の匂い、そういうものが伝えられるのは、紛れも無くこの冗長なデータなのです。

◇大切な人に送る手紙は、ワープロを使わず、たとえへたくそでも手で一生懸命文字を書く・・・それは、文字ではなく、あなたの手の軌跡、あなたの存在した証拠を伝えるため・・・。そして、メールでそれが出来てしまう文字電話こそ、消えて欲しくないPHSサービスの一つだと私は思ったりするわけです。




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