誰が為に携帯は鳴る?


◇今回のタイトル、まあ、見事にヘミングウェイのパロディなんですが、内容はまったくといっていいほどパロっていません。昨今の携帯電話端末はびっくりするほどのペースで新作がリリースされ、ユーザも結局それに躍らされて年1回は数万円という高価な買い物を思わずしてしまっています。このハイペースなリリース、いったいなぜなんだろう?と考察などしてみるのが今回のお話。

◇最近の携帯電話のリリース間隔、本当に短いですよね。多いときは月に数機種のペース。多くのユーザがその機種で搭載された新機能が気になって、いわゆる機種変更縛りが解けたユーザは思わず新機種を手にしてしまうというわけですが、ほとんどの場合、その新機能は使われることもなく、忘れられたまま再び新機種に交換されてしまうわけです。実にもったいない話。なぜ、このような資源の無駄遣い的なサイクルが成り立つのでしょうか?消費者としても、無駄な買い替えは控えて出費を押さえたいところでしょう。しかし、なぜに?

◇ともかく、真っ先にあげるべき事項があるとすれば、それは、昨今の恐ろしく早い技術革新のせいだとする見方でしょう。ともかくこの業界、進化が早い!ですから、思いもよらぬ高性能の部品が1ヶ月前の半分のコストで使えるようになるなんてざらな出来事。こうなると、たとえばほぼ同じコストで6万色のTFT液晶が使えるようになったり、低消費電力の高クロックプロセッサが使えるようになったりと、PCの進化を追いかけるような形で携帯電話にもどんどん高性能の部品が搭載されていきます。すると、たとえば、高性能のプロセッサが使えるようになれば、動画の録画・再生も出来るようになりますし、CCD素子が安くなれば高画質のカメラを内蔵できるようにもなります。メモリーだって小型で大容量のものが次々と開発されていますから、メール保存容量なんてのもここ数年で一桁違ってきています。このように、技術の進歩によって、なるべくしてなった、というのが、恐らくタテマエ上の理由ではないかと思われるところです。

◇タテマエって、じゃあ、本音は?と聞きたくなるところ。これは、ぶっちゃけて言ってしまえば、ユーザに買い替え意欲を湧かせるためです。携帯電話の買い替えには、皆さんご存知のとおり、ある程度の制約があります。いわゆる「縛り」というやつですね。前回の購入からある一定期間経過しないと買い替えできなかったり、割高になったりします。これは、購入時にキャリアが販売店にインセンティブを支払っているため、頻繁に買い換えられるとキャリア、または販売店は大赤字になってしまうからです。で、この縛りの切れるタイミングというのは、人それぞれ、いろんな時期にやってきます。ちょうどその時に、目の前に新機種があったら、どうでしょう?買いたくなってしまう人も多いのではないでしょうか。つまり、切れ目なく端末をリリースすることで買い替えサイクルを早くする目的もあるわけです。

◇たとえば、もし半年に一度しか新機種が出ない会社があったとしましょう。そして、ちょうど5ヶ月前に新機種が発売されたときに縛りが切れたとしましょう。どうしますか?後一ヶ月待っちゃいますよね。そう、このいわゆる「買い控え」が、大きく売り上げを落とす原因になるわけです。簡単な計算をしてみましょう。縛りを10ヶ月とします。端末サイクルとの兼ね合いですべての人が2ヶ月買い控えをしたとします。端末購入費は3万円として、10年たってみると・・・一人当たり30万円のご購入です。もし買い控え期間を1ヶ月に短縮できたとすると、期待値は32.7万円、その差は2.7万円です。全加入者が1千万人いたとすれば、何と2700億円!一年当り270億円、余計に売り上げることが出来るわけです。買い控えの平均値が2ヶ月とするとリリースは4ヶ月間隔、1ヶ月待ちとすると2ヶ月間隔ですから、年間、余分の3機種を270億円以内で開発すれば元が取れます。しかも、細かくリリースされる機種は一部の部品やデザインを変えたマイナーチェンジも含むわけですから、これは狙わないわけにはいきませんよね。

◇そしてもう一つ、忘れてはならない理由があります。それは、話題性。常に何かをやっているという話題性を獲得するために、こまめに端末をリリースしていくのは非常にうまいやり方です。しばらく何もリリースしない会社は、ある日話題に上っても「ああ、そんな会社もあったね」で終わってしまいます。新端末をリリースしてニュースサイトなどに取り上げてもらうだけでかなり大きな宣伝効果があります。

◇しかし、ここでちょっと考えなければならないことがあります。一体全体、新端末は誰のためのものなんでしょうか?携帯電話は、何のための道具なのでしょうか?間違っても、技術誇示や金儲けや宣伝のための道具ではありませんよね。一体、誰のために携帯は鳴るのでしょうか?

◇その答えはもちろん分かりきっています。それはほかでもない、ユーザのための道具なんです。ユーザが使うからこそ、プロバイダは提供するのです。もしユーザが必要ないといえば、プロバイダは作ることはしないのです。ところが、携帯電話市場は、この主従関係が逆転しているかのように見えます。すなわち、使わせるキャリアと使わされるユーザという関係になってしまっているのです。そして、携帯は、ただただ、キャリアとメーカのために今日も鳴り続けています。

◇そんな中で、ちょっと変わったキャリアが、と言えば、もう話の筋から予想はしているとは思いますが、そう、DDIポケットというところがあります。このキャリアからは、早くて半年に一度、下手をすると一年に一度しか端末が出てきません。そりゃ、開発費も少ないし、ユーザも少ないですから、頻発するのは経済的に不可能と言う見方もあるでしょう。この点では他のPHSキャリアも同じです。ところが、DDIポケットが異彩を放っているのは、とにかく、リリースごとにシステムに改革が起こっている、と言うことです。端末の改良じゃありませんよ、システムそのものが変わっていて、その新システムを利用するために端末がリリースされる、という構図になっているのです。たとえば、一番いい例はAirH”でしょう。AirH”は2001年6月、端末リリースと同時にサービスを開始しました。その後、CF型への要求に合わせてCF型をリリースはしましたが、元祖Airと競合するPCカードタイプは、2002年まで出てくることはありませんでした。そして、出てきた新カード端末は、128k対応端末。音声端末も、feelH”はサウンドマーケットの開始のためにリリースされ(と私は思っています)、その後、久々のリリース(実に1年ぶり)は、ライトメール技術(UUS技術)を応用したEメール送受信システムと音声端末でのAirH”利用のための端末でした。

◇こうやって見てみると、他のPDC各社は、カメラを内蔵したり、JAVA-VMを内蔵したり、と、別にその時点で要求があったわけではなく、必要性があるわけでもなくリリースしているのに対して、DDIポケットはユーザの要求にこたえて新システムを開発し、その為だけに端末を開発します。この差は一体どこから来るのか、それを解き明かすには言っておかなければならないことがあります。それは、PDCシステムはすでに限界に達している、と言うことです。

◇PDCシステムは、広大な領域を、音質の劣化なくカバーするために考え出された方式です。つまり、元々音声さえ通ればよかったのです。ですから、いくらデジタルとはいえ、改良には限界があります。一方、PHSはISDNを持ち歩くためのシステムでした。ISDNには元々マルチメディア用にさまざまな手順が用意されているため、PHSシステムが対応すればそれらのさまざまな機能を使うことが出来るようになります。そして、そんな機能を組み合わせればまだまだすごいシステムも作り出すことが出来ます。たとえばFOMAとテレビ電話が出来る固定端末、モペットをご存知ですか?あれはISDNを使った端末です。同じことをPDCを使って出来るか、と言えば、絶対に不可能です。ところが、PHSでもFOMAとのテレビ電話が出来るようにすることは現在の技術でも十分可能です。PHSにはまだまだ十分な可能性が残っているわけです。

◇追記:FOMAとテレビ電話が出来るPHS、松下が試作しちゃいましたね。もちろん売る気はないでしょうが(ドコモPHSの貧弱なインフラでは・・・;苦笑)、PHSがどれだけシステム拡張に強いかを伺わせます。(このコラムの源プロットは4月に書きました)

◇こんなわけで、限界に達したPDCは、ひたすら見た目と通信と関係のない機能を次々と変えながら新端末を乱発し、ひたすらユーザのお金をむしりとるのに対して、DDIポケットは本当に必要なものしか出さないのです。どちらがユーザ主体か、どちらがCustmer Drivenの関係か、分かりますか?

◇誰のために携帯は鳴るのか、それは紛れもない、あなたのために鳴らなければなりません。あなたの携帯は、誰のために鳴っていますか?




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