沖電気128k用チップの謎?(数年で風化必至)


◇今回、風化覚悟のネタで行きます。テーマは沖電気PHS128k通信チップ。いいのかね、本当にこんなもの取り上げて。間は持つのかい?>自分

◇さて、この沖電気のチップ、正式型名はML7078といいます。但し面倒なので以下「チップ」と呼びます。このチップ、ニュースリリースは2001年6月26日に行われました(http://www.oki.com/jp/Home/JIS/New/OKI-News/2001/06/z0130.html)。これは、簡単に言うと、4スロット対応TDMA(PIAFS内蔵)LSIです。ああっ、すでに訳が分からなくて「戻る」ボタンを押しちゃっている人がたくさんいる気がする・・・。ともかく、気を取り直して、簡単に説明すると、PHSは元々「時間分割多元化方式」という方法であり、これはある一定時間毎に「スロット」と呼ばれるカタマリが順々に流れていて、一つの通信チャンネルは一つのスロットに相当するようになっています。PHSでは4つ(上りと下りを別と考えれば8つ)のスロットを持ち、そのうち1スロットを制御用に使用しているため、1周波数あたり最大3チャンネルを張ることが出来ます。ところが、件のチップは「4スロット対応」を謳っているわけで、実に怪しげです。

◇さて、このチップのすごいところが徐々にわかってきます。1周波数あたり3チャンネルしか張れないはずなのに、なぜに4スロットか。一つ目の答えは、PIAFS64k×2。つまり、(32k×2)×2。通常のPIAFSは同じ基地局に2チャンネル張ることで64kを実現しています。チップは、これを二つ、違う周波数(つまり基地局)に対して張ることが出来るわけです。この方法でベストエフォート128k回線交換接続が出来てしまいます。ここでちょっと注:あくまでベストエフォートです。ギャランティーで実現するのは非現実的と言わざるを得ません。第一に接続性、これは現在いる場所で2スロットが空いている基地局を2基同時に補足できなければなりません。第二に、安定性、ハンドオーバ先にも2スロットが必要ですし、それが必要となる頻度が倍になります。第三に回線利用効率。ギャランティーだと使おうが使うまいが確実に4スロットを占拠します。利用効率は確実に下がり、結果として通信料が高くなる可能性があります。

◇しかし、多少使いにくかったりするとはいえ、この方法での128k接続は強力です。128kとはいえ、PIAFSの実効速度は一チャネルあたり29.2kbps、つまり4チャンネルで116.8kbpsとなります。確かに、ADSLなどの高速回線に慣れてしまった人にはさほど速く感じないかも知れません。しかしっ!これがすごいのは、「確実に」この速度が出るということ。たとえばFOMAと比べてみると、FOMAは最大384kbpsを謳いつつ、実用上は100kbpsを超えた程度。なぜなら、384kbps×数チャンネルを複数のユーザで共有&ADSLと同じように基地局からの距離によりキャパシティが変わるという特性があるためです。これに対して、128kPIAFSはチャンネルさえ確立していればこの速度はほぼ保証されます。もし実現すれば、驚くほど快適なモバイルインターネット環境が生まれることになります。通信料は、おそらくは倍になると考えられます(たとえば今大体1分10円なので、30秒10円になる)。これまでの64kPIAFSと違い、有線(ISDN)区間も2回線占有してしまうためです。PHS各社、これがビジネスになると読めば、早速にでもこのチップを使って開発にかかっていることでしょう。

◇さて話は戻って、もう一つの4スロットの使い方。これは、32kパケットor回線チャンネルを4基地局に対して張ると言う使い方。このうちパケット方式のものが、2002年3月26日リリースの128kパケットに実際に使われている方式です。これは、制御スロット上の仮想の回線で、実際はパケットとしてデータは受け渡しされます。制御スロットは各基地局に一つしかありませんから、結果として4基地局必要と言うことになります。

◇しかし、この二つの方式、似ているようで実はまったく違います。前者(64PIAFS×2)のほうは、2基地局、言い換えれば2種類の周波数で接続しているのに対して、後者(32kPacket)は4周波数で接続しているということ。これをぶっちゃけて簡単な例で示すと、テレビデオがシングルチューナーかダブルチューナーか、と言うくらいのすごい差なのです。え?すごさがわからない?・・・うーん、困りました、では、部屋の照明で、普通の明るさの電球が4個あるのと、倍の明るさの電球が2個ある、と言う違いなんです。いや、確かに、部屋にただ住んでいるだけではその違いにはあまり気づきません。しかし、よく見てみましょう。電球2個では電球のソケットも2個しかありません。天井裏の配線も2本しかありません。一方、4個はそれぞれ4個あります。また、4個と2個でそれぞれ部屋全体を照らすには、同じ配置は使えません。つまり、電球4個版の部屋で、二個取り除いて残り二個を2倍の明るさの電球に変えても、電球2個だけで照らせるよう作られた部屋と同じように隅々まで照らすことは出来ないでしょう。この両方に対応している、と言うことは、実にすごいことなんです。いや、むしろ不自然とも言うべき・・・。

◇さらに、このチップは小ネタを抱えています。4基地局と同時に通信、と書きましたが、その同期はどうするのか?という問題。DDIポケット基地局は基本的に同期が取れている(そのため都市部での混信が少なく、ビジーを減らせる)のですが、いくら同期が取れているとはいえ、電波が伝わる速度はあくまで有限、つまり、基地局との距離が違えば到達するタイミングもずれてくるということ。こうなるとなかなか厄介なのですが、何とこのチップ、基地局との距離の差による時間差を修正する機能まで備えています。わずか1チップの中に、4つのタイミングジェネレータまで備えているというわけです。128kbpsパケット通信がきちんと使える秘密は実はここにあったわけです。いやもう、こうなると至れり尽くせりといったところ。

◇で、最後にとても気になる仕様。それは、「ADPCMトランスコーダ×4+PCMコーデック×1」・・・?いや、ADPCMというのは、PHSの音声通話で使われている音声圧縮方式のこと。このトランスコーダは64kbpsPCM音声信号を32kbpsに圧縮します。一方のPCMコーデックはアナログ音声を64kbpsPCM信号に圧縮します。まてよ、意味が分からん・・・たとえばこのチップで音声端末を作ったとします(音声対応カードも可)。話します。PCMコーデックで64kbpsPCM信号に変換されます。それを今度はPHSの1スロット、32kbpsに載せるためにADPCM変換を行います。すると普通に通話できます。・・・なんでADPCM「×4」なんだー!?一つで十分じゃないのさー!?・・・謎です。音声コーデックをわざわざ4チャンネル分取ってある意味・・・しかもアナログからの取り込み部であるPCMは一つしかないのに・・・。謎。

◇と言うことで、驚きの高性能を持つこのチップ、今後128k系サービスが提供されていく上でなくてはならない重要なアイテムなのでした。沖電気もおっかなびっくり開発したんでしょうが、大丈夫、儲かりますよ♪。あとは、実際にこのチップを使いこなせるかどうか・・・今後のPHSの端末・システムの開発はここにかかっているといっても過言ではありません。

◇追記(このコラム、原プロットは一月末に書きました):AH-G10のファームウェアアップデートで、対二基地局通信で128kに対応できるようになりました。そう、言ってみれば64+64の方式です。やっぱりできるんですね。すごいです。



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