次世代携帯とPHS ~ 矛盾を生んだ犯人は誰だ?


◇ずいぶん前から騒がれてきた次世代携帯電話がようやくサービスインしてきました。いろいろと幻想(妄想)が様々な口から(主に無知なマスコミ)語られてきましたが、今回はこれをざっくりと切っていきます。ここで警告。今回かなり辛口です。

◇では、まず次世代携帯の基本的なスペックを見てみましょう。音声通話はAMR方式を利用します。これは、回線の混雑具合にあわせて自動的に通話品質を変化させるもので、最低で4.8kbpsから最大12.2kbpsまでのビットレートを持ちます。ちなみに、今のcdmaOneが8kbpsですから、一部これよりは劣るわけですが、圧縮方式が違うため一概に悪いとは言い切れない、という程度です。次にデータ通信ですが、回線交換で64kbps、パケットで最大2Mbpsまでの通信が可能とされています。とまあ、基本スペックはだいたいこんなものです。

◇まず音声通話の話ですが、高度な圧縮アルゴリズムの採用でcdmaOneと同程度の音声品質を持っています。しかし、これはもちろん回線に十分空きがあるときの話。最低の4.8kbpsに落ちてしまうと、おそらく聞けたものではないでしょう。PDCハーフレートの5.6kbpsよりも悪いわけですから・・・。しかも、圧縮方式が高度であるというところにさらなる落とし穴があります。高速のプロセッサが必要になるのです。当然ですね。高速のプロセッサは大量の電力を消費します。当然通話時間は極端に短くなるわけです。

◇次にデータ通信です。回線交換で64kbpsが出るとのことですが・・・どこがPHSよりもいいんでしょうか?同速度で、高い料金、短い通信時間。カード型端末+ノートPCという使い方をすると、おそらくバッテリーは1時間も持たないことでしょう。あまりにナンセンスです。

◇ここで簡単な算数です。従来の携帯電話は最大800mW、平均約200mW程度の出力で送信しています。これに対して、次世代携帯は、最大2000mWと規定されていますので、約2.5倍の送信出力があるわけです。さて、今の携帯電話、連続通話でどのくらいバッテリーが持つでしょう?せいぜい1~2時間という程度でしょうか。そうすると、次世代携帯は40分も通信すればバッテリーは空っぽということです。しかも、次世代の通信方式はは非常に複雑な処理を行う必要があるため、プロセッサも従来のものより数倍高速なものが必要です。これが通信中常にフル稼働しているわけですから、連続通信時間は2~30分といったところになります。現在、バッテリーには技術的進歩は望めません。昔の携帯のように肩から数キログラムもあるでっかい本体をぶら下げて歩くというなら話は別ですが、少なくとも今と同じ大きさの携帯電話では、全く使い物にならないのです。

◇このように、モバイル通信機器というのは消費電力と通信速度のトレードオフから逃れることは不可能なのです。今躍起になって新型のバッテリー(燃料電池など)を開発しているのは、バッテリーの性能が機器の性能に追いつかないからなのです。

◇ここで、はて、おかしいな、と思う人もいるんじゃないでしょうか?PHSです。PHSは、どういう手段を使ったものか、64kbpsの高速通信と長い通信時間を両立しています。これはなぜでしょう?

◇それは、PHSのエリアの狭さに秘密があります。答は簡単で、PHSは相対的に、一基地局あたりのエリアが非常に狭いため、割と低い送信電力で高い通信速度を確保できるのです。実はPHSの通信方式では、周波数一つあたり384kbpsも出しています。これを複数の回線で共有して使っているわけです。ところで、PHSの平均出力は20mW/64kbps(帯域幅288kHz)です。これに対して次世代携帯電話は帯域幅5MHzで2Mbpsまで出せるように設計されています。伝送速度は帯域幅にもほぼ比例するので、その比をとると17.36倍です。一方、実際の速度の差は2000k/64kで31.25倍。ここで、帯域対伝送速度で2倍の差が出てきてしまっていますが、この差を埋めるのは、もちろん伝送出力です。エリア端で2Mbpsの速度を出すには日本での規格ぎりぎりの1000mWを出す必要があります。なんと50倍。たかが2倍の差を埋めるのに50倍の出力が必要なのです。これだけの差がありながら、実はPHSはまだまだかなりの余裕を持っています。今とほぼ同じ出力で、次世代携帯電話の3倍の通信速度を出すことができる可能性があるのです。おそらく体力的に余裕のないPHS各社はこの新方式に移行することはできないでしょう。PHSが携帯電話より劣るという偏見が流布してしまったことは実に惜しいことです。

◇PHSは開業当初予測では2000年に6000万人の加入者が得られると試算されていました。なんと現在の携帯電話総計と同数です。それほど優れた通信方式であったのです。もし予定通りの加入者を得られていれば、現在では日本中どこでもADSLを遙かにしのぐ通信環境を無線で得ることができるようになっていたことでしょう。何度も言いますが、ちょっとした偏見と携帯電話各社による激しいPHS攻撃による損失は、そのまま日本の情報通信に対しても計り知れない損失としてのしかかってきているのです。その代償が、設備投資規模数兆円とも言われる次世代携帯電話なのです。おかげでうちの会社は儲かっていますが・・・(笑)。

◇しかし、うちの会社が儲かるのも後2年でしょう。その先は、全く真っ暗です。先に述べたように、全く原価に見合わない次世代携帯サービスはどこかでひずみが発生するはずです。残念ながら具体的な社名は出せませんが、いくつかの通信機器企業は日本での次世代携帯事業への参加にかなり否定的で、おそらく利益を生むことはないだろう、と考えているようです。また、ヨーロッパでも、あまりに高すぎる設備投資と十分すぎる現在のGSMサービスのため、次世代携帯の導入に逆風が吹き始めたようです。さらにここにきて世界的なIT不況です。状況は明らかに次世代携帯に否定的です。こんな状況にあってもなお、各社は次世代携帯をごり押ししていくつもりなのでしょうか。

◇とまあ、このように、一部マスコミの幻想によりまるで夢のメディアかのように言われる次世代携帯ですが、実に様々な自己矛盾を抱えています。それに対して、PHSは偏見という名の押しつけの矛盾を抱えています。日本の通信料金がなぜこんなに高いのか、日本はなぜ、いまや「情報通信後進国」とまで言われるまでに世界に遅れをとっているのか。その答えはこの辺の乱立する矛盾にあります。他にも日本の情報通信には多くの矛盾があることはご存じでしょう。高速通信をうたい文句に急ピッチで(半ば強引に)導入されたISDNは結局破綻し、古い銅線を利用したADSLに取って代わられ、ISDN回線を再び銅線に換装し直すというばかげたことを平気でやる、日本とはそんな国なのです(そして、強引に導入したISDN回線がじゃまをするためにいまだにADSLを利用できない人がなんと多いことか・・・)。ここまで言えば、日本の情報通信をだめにした諸悪の根元は、元国営企業の某と、その派生企業であることは一目瞭然です。いつまで日本国民は固定電話や携帯電話の利用料という名の破格の「上納金」を某企業グループに納め続ける気なのでしょうか・・・。それを拒否する勇気がない限り日本の通信に未来はありません。


戻る