AIR-EDGEのしくみ(完全版)


  1. (前置き)PHSの基本的な仕組み
  2. AIR-EDGEの基本的なしくみ
  3. AIR-EDGEの基本動作
  4. 128kパケット(4xパケット)の動作
  5. AIR-EDGEとドーマント方式
  6. パケット通信中の着信
  7. 基地局1基で64kパケット?
  8. 256kパケット(8xパケット)
  9. AIR-EDGEの将来の展望

  1. (前置き)PHSの基本的な仕組み

    AIR-EDGEは、PHSの通信方式上でパケット交換接続を実現した通信方法の一つです。まず、PHSの通信方式ですが、用語的には「TDD-TDMA」方式と呼ばれています。TDDとは、二重化方式、つまり、端末(移動局)から公衆アンテナ(基地局)への通信(上り通信)と、その逆、基地局から移動局への通信(下り通信)を分けるために、時間でそれを区切っている、という意味です(Time Division Duplex)。

    TDDの説明

    一方、TDMAとは、アクセス方式、複数の人が一つの電波(周波数、キャリア)を共有するときにどのように分け合うかを決める方式の一つで、複数の人を時間で分割して同じキャリアの中に置くことで、複数の人が同時に使えるようにしています。

    TDMAの説明

    この図で、一つの通信に割り当てられる最小の単位のことを「スロット」と呼びます。この二つの方式を組み合わせたものがPHSで、海外ではこれと良く似た方式の様々な通信方式が、携帯電話システムまたはコードレス電話システムとして使われています。PHSでは、4スロットを使ったTDD-TDMAが採用されていて、最終的に一つのキャリアは次の図のように使われています。

    TDD-TDMA

    また一方、移動局がそこがエリアであることを認識したり、移動局に対する呼び出し信号を送信したりするために、最低一つのスロットをそれ専用にとって置かなければなりません。これを制御スロットと呼び、これはユーザに割り当てて使うことが出来ないことになっています。逆に、通信に使える残り3スロットを通信スロットと呼び、これはユーザに割り当てて通信用に使うことが出来ます。つまりPHSでは、一つの周波数に対して同時に3人までが一度に通信できることになります。

    全キャリア・スロットイメージ

    基本部分が長すぎて少しうんざりかとは思いますが、もう少しだけお付き合いください。実はPHSにはもう一つだけ、大切なことがあり、それは、「制御キャリア」の存在です。制御キャリアとは、その名の通り制御通信用のキャリア(周波数)で、制御スロット上での通信に使われます。この制御キャリアは、基地局から移動局の呼び出し、またはシステム情報の定期送信などの、間欠自動送信のみに仕様可能なキャリアで、一般の通信は制御キャリア以外の「通信用キャリア」と呼ばれるキャリア上で行われます。この制御キャリアは、事業者(通信事業者、通信キャリア、つまりウィルコム、など)に付き一つしか与えられていないため、多くの基地局が混在する地域では複数の基地局で同じ周波数を共有するよう、自立的に排他処理が行われています。一方、通信用キャリアは全事業者共通でたくさんあり、通信を始めるときに空いている所を自動的に選んで使うようになっています。そして、もう一つ、制御用キャリアは制御スロットでしか使えませんが、通信用キャリアは通信用スロットで使えるだけでなく、制御スロット上で使うことも可能となっています。この辺がAIR-EDGEの通信方式を説明する上で重要になってきます。

    制御チャネルの自立割当



  2. AIR-EDGEの基本的なしくみ

    AIR-EDGEは、先ほど説明したPHSの通信方式の上で、パケット方式を実現した方法です。一つのキャリア、一つのスロット(一チャネル)の上には、従来の方式(回線交換)では1ユーザしか収容できませんが、パケット方式は、同じ一チャネルの上に複数のユーザを収容できるようにします。つまり、TDMA方式で分割した結果である一つのスロットを、さらに時間で分けてしまうということです。ただし、その分け方はTDD-TDMAのような整然としたものではなく、場合場合によって変えていくような形になります。

    パケット方式

    このように、A、B、Cの三人のユーザが一つのスロットをパケット方式で共有していたとします。この時、この三人分がきれいに交互に送信されるなら、単にTDMA方式の分割数を増やしただけです。そうではなく、例えば今、Aさんに送信されるデータがネットワーク側から基地局まで届いたとすると、基地局はそのデータをまずある大きさの単位に区切り(パケット)、そしての先頭に「Aさん行き」という荷札を付けます。そして、そのまま、パケット用スロットに流してしまうのです。すると、同じスロットを3人で受信待ちしていて全員が同じようにAさん宛てのパケットを受け取ったとしても、Bさん、Cさんは「自分宛てではない」としてそのパケットを無視するため、データは正しくAさんだけに届けられることになります。このように、「データが来たときだけ宛先を付けて送信する」のがパケット方式のキモです。つまりデータが無いときはパケット用スロットは何も送信されていないということになります。そのため、全員が繋ぎっぱなしにしていても大丈夫なのです。ちなみに、もしAさんとBさんとCさんが同時にデータの受信を始めたらどうなるか、ということですが、これはどのようなアルゴリズム(手順)を使っているかによります。おそらく、単純に3人に均等に割り振る(つまりTDMAそのもの)ような形になっているものと思われます。

    そして、そもそもAIR-EDGEがなぜパケット方式なのか、についてですが、それは、ある特殊なスロットを複数人で共有するためだったのです。それが、先ほどPHSの説明で出てきた「制御スロット」です。制御スロットといっても、制御キャリアの制御スロットはパケットには使えません。規格上、間欠繰り返し送信用途にしか使えないと規定されていますし、何より、もし可能だとしても、どの基地局も同じキャリアを使うため、ある地点で利用できる通信量の総量は基地局の数に関係なく32kbpsに固定されてしまいます。

    制御キャリアをパケットに使うと・・・

    そこで使われるのが、通信キャリア上の制御スロットです。ここは普段ほとんど使われていない部分です。この、「普段ほとんど誰も使っていない」という部分に目を付け、この上で通信を行えば通常のPHS通信に影響を与えること無く、電波を有効利用できる、と目を付けたのがウィルコム。しかし、制御用スロットは共通スロットですから、これを通信用スロットのように使うことは出来ないため、必要なときだけ送信する、というパケット方式が合っているわけです。つまり、AIR-EDGEの一番基本的な仕組みというと、「制御スロット上のパケット交換通信」ということになります。

    AIR-EDGEのパケットスロット



  3. AIR-EDGEの基本動作

    AIR-EDGEの基本的な動作は、次のような図で表されます。

    AIR-EDGEのパケット手順

    まず、接続を開始すると、基地局に対してパケットのパラメータの問い合わせを行います(推測)。それに対する応答を元にもっとも空いている基地局を選択し、接続を行います。

    接続が確立されるとそこで通信を行うわけですが、接続だけがあって通信を行っていない時間が5秒を過ぎると、無線部分を一時的に開放し、消費電力を抑えるような処理を行います。この状態では、まだ基地局とは論理的に接続されているため、通信を再開すればすぐに同じ基地局との間の無線リンクを回復し、通信を再開できます。この時のタイムラグは場合によりますが0.5秒程度あるようです。

    次に、無通信5秒で一時的に開放された後、さらに無通信で15秒ほど放置されると(つまり合計20秒間無通信)、基地局との論理接続も開放され、ネットワークとの論理接続だけが残ります。この状態から通信を再開する場合は、再度基地局検索からネゴシエーションまでをやり直すため、1~2秒程度のタイムラグが生じるようです。これらの一時開放手段(ドーマント)については、後述「AIR-EDGEとドーマント方式」も参照してみてください。

    以上が、おおざっぱなAIR-EDGEの基本通信手順です。



  4. マルチリンクパケットの動作

    AIR-EDGEの特徴的な機能の一つとして、パケット回線を最大8本束ねて、8xパケット(256kbps~W-OAM typeGで最大800kbps)通信を行うことが出来る、というものがあります。このマルチリンクパケットは一体どのようなものか、というと、単純には、複数の基地局へのパケット接続を同時に起動し、それを同期マルチリンク方式で束ねているというものです。同期方式であるため、全てのパケットチャネルが同時に送信可能になったときだけ全てのチャネルを通して同時にデータ転送が行われます。逆に言えば、どれか一つでも転送に失敗するチャネルがあれば、そのタイミングでのデータ転送は4本分丸ごと失敗するということです。このことを指して、「AIR-EDGEのマルチリンクパケットは、最も遅いリンクの速度に引きずられる」という表現を良くされています。このマルチリンクパケットが一体どのように動作しているのか、というと、概ね以下のようになっているようです。ここでは、1パケットリンク32kbps、4xまでの接続と言う例で説明します。

    まず、最初の接続についてですが、取りあえず32kパケット一本の接続を行います。

    加速(チャネル追加)手順

    32kで接続しているとき、データが流れ、ある閾値を越えると、2本目の32kパケットチャネルを要求にいきます。このパケットチャネルの要求は、一本目のパケットチャネルでの通信を行いながらそのまま出来るようです(データが途切れること無くスピードアップできるため)。同様に、速度が増える毎に、3本目、4本目が接続され、最大で合計128kbpsのパケット通信が出来るようになります。

    減速(チャネル解放)手順

    一方、2本以上のチャネルが張られているとき、5秒以上閾値以下の通信量しかないような場合、それに併せてパケットチャネルが開放されます。たとえば、4本のチャネルを使っているときに、3本のチャネルしか必要ないと判断される閾値を下回ると、4本目が開放されるようです。同様に、3本から二本、二本から一本というように、閾値を下回る通信が5秒継続される毎に開放されていきます。もちろん、最後の一本が必要ないと判断される閾値は0kbps(つまり無通信)ですから、無通信で5秒放置すると全てのパケットチャネルが開放されます。これは結果だけ見れば前項で説明したAIR-EDGEの基本動作と同じです。また、先ほどの話で、「128kは最も遅いリンクに引きずられる」というものがありましたが、各チャネルの実効速度がある閾値を下回るとやはり優先的に開放するという処理も行っているようです。これは残念ながら実験的に経験したことはありません。

    このようにして、通信量やチャネルの状態に併せてチャネル数を増減させる理由は、第一に、可能な限り省電力で通信を行うためでしょう。そして、全く無通信とは言え、繋がっているだけで基地局・ネットワークのリソースを消費しますから、必要の無いときは可能な限り開放してリソースを確保する、という目的もあるものと考えられます。



  5. AIR-EDGEとドーマント方式

    ドーマント方式と言うのは通信中に回線を論理的に維持したまま無線部分を開放(一時休止=ドーマント)できる方法のことで、AIR-EDGE全てに実装されています(「基本動作」で説明した一時開放のことです)。このドーマントを使うことでいくつかの恩恵が得られます。それは、1.消費電力を抑えることができる、2.無線資源を節約できる、3.圏外・切断補償ができる、という3点が主なものと言えます。

    また、AIR-EDGEには、先に述べたとおり、二通りのドーマント状態が存在します。基地局との間のドーマント(無線資源管理上のドーマント)とネットワークとの間のドーマント(PPPリンク上のドーマント)です。前者は、基地局との論理接続を維持したまま、電波の送受信を一時的に止める(無線回路を開放する)動作で、この状態で送受信が再開された場合、接続中の基地局との通信をそのまま再開します。後者は、電波の送受信を止めるだけでなくネットワークへの接続経路も一時的に削除します。この場合、通信を再開すると、通常の接続のときと同じように基地局への接続をやり直し、新しく接続した基地局からドーマント状態の接続先への経路も張りなおします。この二つの状態ですが、前者の状態では、通信再開に長くとも0.5秒程度しかかからないのに対し、後者のドーマント状態では1~2秒、電波状態が悪ければもっとかかってしまいます。

    このドーマントからの復帰のタイムラグを嫌って、パケット送出ツールがいろいろと提案されてきました。最も一般的なのは、UDPを使って任意のサーバの任意のポートに内容の無いデータを送るだけ、というものです。ドーマント状態におちるとき、無線ドーマントの場合は無通信状態で5秒、ネットワークドーマントはそこからさらに15秒ですから、パケット送出間隔を20秒以下に保てば常にリンクを維持し送受信ともタイムラグが小さくなるというわけです。ただし、この使用に関しては注意が必要で、というのも、接続先の基地局が混雑してきてもそことのリンクを維持するよう強制してしまうわけで、もし他の局が空いていても端末はそれに気づかずずっと混雑した基地局に接続されっぱなしになってしまうのです(通常は、ネットワークドーマントに落ちて無線リンクが完全に切れたあと再接続するときに最も空いている基地局を自動で検索してくれます)。一番良い方法は、普段は5秒間隔でパケットを送出するけれども、10分に一回だけ、1分以上のインターバルをはさむ、というような方法です。実は、こういう用途に使うための優れたツールがあります。それが、自動PINGツール(ネットワークモニタetc)です。定期実行のスケジュールをかなり自由に設定できる(ツールによっては簡易スクリプトも書ける)ため、AIR-EDGEと自宅周辺の基地局状況の特性に合わせた上手いスケジューリングをすればかなり快適に使えるようになります。

  6. パケット通信中の着信

    AIR-EDGEは、パケット通信を使っていますが、ほとんどの携帯電話のパケット方式では、ほぼ例外なくパケット通信中の着信がサポートされています。同様に、AIR-EDGEのパケット方式でも、音声着信が出来るようになっています。ただし、一般の携帯電話と比べると、ちょっとその性質が違います。ここでは主にその性質について説明します。

    元々、AIR-EDGEのパケットでは、「ドーマント」の項で説明した、ネットワークドーマント状態(無線リンクも基地局との論理接続も切断した状態)でしか着信が出来ませんでした。これは、そもそも着信と言うものが、制御キャリア上に送信される「ページングメッセージ」を受信する必要があり、完全に無線部を開放してページングメッセージを監視できる状況下でしかそのメッセージに反応できなかったからです。これは、初めてパケット中の音声着信に対応したKX-HV200で「通信中ではないときに限り音声着信が可能」と言われていたことからも分かります。ところが、AH-K3001V以降では、実験した限りではパケット通信を行っている最中でも着信が可能になっています。どうやら、パケット中の着信方式について、手が加えられたように感じられます。

    その仕組みは、これはあくまで想像の域を出ませんが、パケット通信中の付随チャネルを使っているのではないか、と思われます。元々、PHS方式では、通信用の通信チャネル(TCH)を使っている最中でも、そこに付随チャネルとして低速な信号用チャネルが用意されています。基本的にPHS方式を踏襲しているパケット方式でも、同様な(同一ではないけれど)付随チャネルを持ち、そこに制御情報を流せると考えられます。そして、着信のあったとき、ページングに相当する制御メッセージをその付随チャネルを使って端末に向けて送信するような仕組みがあるのではないかと考えられます。

  7. 基地局1基でマルチリンクパケット?

    皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。当初、基地局1基当りパケットチャネル一本しか張れなかったものが、パケットチャネル2本を張ることが出来るようになった、という話。つまり、基地局1基で2xパケットまで収容できる、ということになります。しかし、少し考えてみれば、これはかなりおかしなことです。というのも、AIR-EDGEのパケット方式は、PHSの制御スロット部分を使う、と言うのが基本だと最初に言いましたよね、この制御スロットというのは、当然のことながら、一基地局につき一つしかありません。そして、この制御スロットの通信速度が他のスロットより速いということもありません。制御スロットを使う以上、どうやっても32k以上のパケット通信は不可能なのです。

    その答えは、実は簡単で、元々パケット方式は、制御スロットだけでなく、通信用スロットを使った通信も出来るように考えられていた、ということです。私は、これは実は逆ではないかと思っていますが。PHSのセオリー通り、通信用スロットを使った方が、他の信号のやり取りにも使う制御用スロットを使うより安全で確実だからです。ただ、パケットでつなぎ放題まで考えたとき、そこに来るのは回線逼迫と、パケットにより基地局が占拠され音声通話が出来なくなる可能性。その問題の回避のため、音声通話とは直接は関係ない制御スロットを使ったパケット通信を開発したのではないかと思われるわけです。

    こういう訳かどうかは分かりませんが、制御スロットと通信スロット一つを消費して、一基地局当り2本のパケットチャネルに対応するようになりました。また、この二つのスロットは、それぞれが独立して32kパケットチャネルとして複数のユーザを受け入れることが可能で、場合によってはマルチリンクパケットの束ねられたチャネルのうち二本を同時に受け入れることもある、ということのようです。なので、一人のユーザが基地局Aに32kパケットで接続したとき、第一パケットチャネルが割り当てられ、もう一人がそれとは全く別に第二パケットチャネルに接続する、という事が出来るようになっています。また、一人が4つの基地局と32kパケット4本で128kパケットを利用している場合、4つ目の基地局との通信品質が落ちてしまったとき、そのチャネルを切り、一つ目の基地局の第二パケットチャネルに繋ぎ直す、なんていう処理も起こり得るようです(下図)。

    128パケット接続の例

    また、比較的新しい基地局では処理能力が上がっているため、パケットチャネルを同時に4チャネル収容可能となっているようです。つまり、PHSのスロット4つをフルに使った、1基地局だけでの4xパケットも使用可能となっているということです。加えて、都市中心部を中心に展開されている最新基地局では、複数キャリアを使い、1基地局だけでパケットチャネルを14回線以上確保可能となっているものもあります(後述8xパケットの項を参照)。



  8. 8xパケット

    8xパケットは、基本的には4xパケットを二つ束ねたものです。ここで少し不思議に思う方がいるかもしれません。最初に述べたとおり、PHSという方式では、チャネルの分離を「時間」で行っていますから、タイミング的に4回線しか収容できません。4xパケットまでだったら、1xパケットを4チャネル束ねるだけなので、それぞれのチャネルを別々のタイミングにし、無線回路はそれぞれのタイミングで周波数を変えて別々の基地局と通信できますが、倍の8チャネル束ねるとなると、どうやってもチャネル同士のタイミングがぶつかる部分が出てきます。

    これを解決しているのは、最初に言ったそのものずばり、「4xパケットを二つ束ねている」という言葉のとおりなんです。つまり、8xパケットでは、4xパケット対応無線機を二台積み込んであるんです。その実際の動作規則については不明ですが、恐らく、4xパケットと同様の動作を倍のチャネル数で実現しているものと思われます。



  9. AIR-EDGEの将来の展望

    AIR-EDGEは今後どのようになっていくのでしょうか。取りあえず、現時点ですでに発表された情報をまとめる程度で予想をしてみます。

    まず、現在、1x、4x、8xとサービスされているそれぞれの方式ですが、それぞれが、都市部を中心に「1.5倍速」になっています。これはどういうことかというと、従来、QPSKという変調方式を使い、1シンボルに2ビットを乗せることが出来ていたところを、8PSKという変調方式に変え、1シンボルに3ビット乗せるように変えます。これで、スロット構成やチャネル数を変更することなく通信速度を1.5倍にすることが可能です。これをウィルコムは「W-OAM」と呼び、これにより、1xは51kbps、4xは204kbps、8xは408kbpsが最高速度となります。ただし、この変調方式の変更に対応できるのはかなり新しい基地局のみで、地方でこの高速化が使えるようになるのはしばらく先だと思われます。

    さらに変調方式の変更という面では、2007年にはさらに16QAM、64QAMへの対応が行われました(W-OAM typeG)。これらは、それぞれが1シンボルあたり4ビット、6ビットの情報量を持ち、現在の方式のそれぞれ2倍、3倍の速度が得られるようになります。実際に利用できる速度は1xは100k、4xは400k、8xは800と言われています。ただし、現在はISDNの限界のため、1xが64k、8xでも512kが最大となっていて、今後、都市部を中心にバックボーンを光ファイバーに変更したところから順次最大800kとなるそうです。なお、自治体との共同展開という形で構築された山形県新庄市のエリアでは一足先にIP回線の導入がされ、最大速度での通信が可能になっているようです。

    一方、2005年に始まった8xは、RF(無線機)を2倍にして4x x 2=8xを実現すると言うものでしたが、さらに、3RF、4RFというものも考えられています。つまり、12xや16xという方式です。これらについてはまだ具体的な日程は出てきていませんが、この先何か動きがあるかもしれません。今のところ、方針としては、3RFを飛ばしていきなり4RFに向かいそうな雰囲気です。この場合、W-OAMなしで512kbps、W-OAM、W-OAM typeGではそれぞれ816kbps、1600kbpsということになり、かなり高速な通信が可能となるはずです。もちろん、基地局の数が増えるほどエラーの確率も増えるわけで、同期方式のAIR-EDGEでは速度の不安定性が顕著に表れてくることは想像に難くありません。現状ではほとんどの局が1局2xに対応し、結構な割合の局で1局4xにまで対応していますから、せいぜい8局、上手く行けば4局のみで16xが実現可能で、4xが始まった当初(当時全ての基地局が1局1xのみだった)とほぼ同程度の安定性は得られるものと思われます。また、2003年の終わり頃から配備され始めた最新鋭局は1局で14チャネル以上に対応しているらしく、これは恐らく1局で16xを捌くだけの能力を持っていると考えられます。都心のみならずちょっとした郊外でその姿を見ることもかなり増えてきていますから、16xが始まる頃には当初から十分な安定性を持ったものとなることが予想されます。

    また、高度化PHSという話でいくと、3倍の帯域(300kHz x 3 = 900kHz)を使う通信方法がPHS規格で策定されています。これを使ってシンボルレートを大幅に上げて高速化を実現することができます。これはどういうことかと言うと、これまでやり方は、同じシンボルレート(192ksps : 192000 Symbols Per Second)で、シンボル数を例えば2ビット(QPSK)から4ビット(16QAM)に上げることでビットレートを稼ぐのに対して、周波数帯域を潤沢に使うことにより、まず帯域が広がったことにより単純に3倍、加えて、従来はとなりのチャネルとの干渉を抑えるために帯域の「端」を切り落としていた部分(ロールオフ)が割合的にはかなり減らすことが出来、効率が上がるためそれで1.3倍程度、これらの効果によりシンボルレートを大幅に上げ(192 x 4 = 768ksps?)、高速化を実現するものと思われます。理論上は、これとW-OAM typeGを併用することで、8xの場合で3~4Mbpsが可能となります。この3倍の帯域を使う方法は、実は規制上緩和されただけで規格的にはほとんど何も決まっていない状態で、まだまだ実現には程遠いと言わざるを得ません。





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